ネット覇権争いの主戦場は「広告マーケットプレース」に
「必要な人、カネ、もの、技術開発を投入し、どんなことをしてでも、広告業界の大手に絶対なってみせる」-マイクロソフトのCEO、スティーブ・バルマー氏は、7月26日に開催された金融アナリスト向けの会合で、こう言い放った。
すごい鼻息だ。そしてその言葉通り、マイクロソフトは広告マーケットプレースの「AdECN」を買収することで合意に達したと発表した。買収額は明らかにしていない。
広告マーケットプレースとは、ネットメディアなどの媒体社の持つ広告枠に対して、広告主や代理店が入札するオークションサイトのこと。これまで広告枠の売買は、媒体社と広告主の間に代理店が仲介者として入るという、人手を介して行う取り引きが中心だった。それをまるで証券取引所のように、電子システムで瞬時にして大量の取り引きを可能にしようというわけだ。広告マーケットプレースは、広告エクスチェンジと呼ばれることもある。
マイクロソフトは発表文の中で、媒体社、広告主の双方にとって広告マーケットプレースは大きなメリットがあると主張している。媒体社は、効率よく広告枠を販売できるし、競売で価格が上昇する可能性もあるので、広告売り上げは伸びる。広告主は、より多くの広告枠にアクセスできるので、ニーズに合った広告予算の配分が可能だ。両者とも、広告マーケットプレースの中立性、透明性のおかげで、より賢明な判断が可能になるという。
だれにとってもメリットのあるような話だが、もちろんデメリットを受ける可能性もある。媒体社と広告主が直接取り引きできるようになれば、広告代理店が中抜きされる可能性がある。広告枠がコモディティー化し、広告枠の市場価格が現状の販売価格より下がって媒体社の広告収入が下がる場合だってあるかもしれない。広告マーケットプレースを普及させようという試みは過去にもあったが、こうしたデメリットに対する不安を背景に、広告マーケットプレースを利用しようという動きにはなかなかつながらなかった。
それがここにきて広告マーケットプレースの利用が急速に増加している。広告マーケットプレースのフロンティア的存在の米ライトメディア社の1日の取り引き件数は60億件にも上っているという。
広告マーケットプレースの利用が急に進みだした理由は、一つには技術的な側面がある。広告と関連のある媒体や広告枠をマッチングさせるターゲティング技術が向上したこと。取り引き処理プロセスを、より低コストで実現できるようになったことなどが挙げられる。
また技術的な理由とは別に、ブログ、SNSに代表されるソーシャルメディアの爆発的な普及も広告マーケットプレースの利用を後押ししている。ソーシャルメディアは、ユーザー数、アクセス件数、滞在時間数など、どの指標をとっても広告主にとって非常に魅力的な存在になっている。とはいうもののブログだけでも数千万個以上存在するといわれる中で、1つひとつと広告掲載の契約を結ぶことは事実上不可能。そこで広告主と媒体を自動的にマッチングさせる広告マーケットプレースの存在が必要になってきているわけだ。広告マーケットプレースには消極的だった代理店も、ソーシャルメディアへの広告掲載を希望する広告主の意向を無視できなくなっているということだろう。
また検索連動型広告の成功も、広告マーケットプレースへの期待を高めている。周知の通り、グーグル成功の背景には検索連動型広告を通じた大幅な収入増がある。検索連動型広告の画期的なところは、検索キーワードに広告をマッチングさせる技術とともに、広告主がキーワードに対して入札できる自動オークションの技術を採用したところにある。
その自動オークションの仕組みを、バナー広告や動画広告を含むあらゆる広告に応用しようというのが、広告マーケットプレースである。広告主は、より説得力のある動画広告により多くの予算を割こうとしている。広告マーケットプレースは、検索連動型広告以上の大きな市場になる可能性が大きいわけだ。
検索連動型広告でグーグルに遅れを取った米ヤフーやマイクロソフトは、広告マーケットプレース事業でなんとかグーグルに追いつき、追い越そうとしている。
ヤフーは先行するライトメディア社の株式の20%を取得し、その動向を見守っていたが、7月12日に残りの株式を6億5000万ドルで買収し、完全子会社化した。マイクロソフトは、AdECNに加えて、aQuantive社を60億ドルで買収することで合意に達している。グーグルはグーグルで、マイクロソフトとの買収合戦の末、オンライン広告大手のダブルクリック社を31億ドルで買収することで合意に達した(独禁法の観点から政府の承認をまだ受けていない)。
ウェブの歴史をみれば、多くの人が集まるところに有効なマネタイズの手段がカップリングされて、1つの時代を築いてきたことが分かる。ポータルは、バナー広告とカップリングされて1つの時代を築いた。今は、検索と検索連動型広告がカップリングされた時代の真っ只中だ。そして今、非常に多くのユーザーがソーシャルメディアに集い始めた。ソーシャルメディアとカップリングされるマネタイズ手段は何なのだろうか。米IT大手の動きを見る限り、それは広告マーケットプレースになるのかもしれない。
この動きは当然のことながら、日本にもいずれ波及してくるだろう。日本の広告会社は、どう対処するつもりなのだろうか。
何人かの大手広告会社の関係者と話してみたが、どうやら業界関係者は広告マーケットプレースが広告業界の究極の姿であることは早くから認識していたようだ。ある関係者は、いずれ広告の取り扱いも、金融商品の取り扱い同様にポートフォリオを組んでインデックスと比較しながら、トレーダーが頻繁に売買を繰り返すようになるのではないか、と指摘する。この人物は、広告業界の未来を先取りするために金融工学の研究を続けているという。
とはいうものの米IT大手傘下の広告マーケットプレースが日本に進出してくる前に、広告会社自らが広告マーケットプレースを築こうという考えはないようだ。できるだけ長く現状の仕組みを維持したい、できれば広告マーケットプレースが引き連れてくる新しい時代にソフトランディングしたい-。既得権者にありがちな本音だろう。そうした思いとは関係なく、広告マーケットプレースという黒船はいずれ日本にも押し寄せ、日本の広告業界、マスメディア業界に大騒動を引き起こす。今はそんな気がしてならない。(湯川鶴章)
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コメント
なかなかおもしろいですね。
オークションというのは、生産者が流通を支配できなくなったばかりか、流通からはじき出された究極の例ですよね。
私は、「インターネット時代には、情報発信者はコンテンツに君臨できぬ」と指摘していますが、広告においても、広告マーケットプレイスという時代がやってくるのですね。
日本の広告業界は、ラテ新聞の広告枠を如何に抑えているかで広告代理店の売上げが決定するために、このところ合併が続いてきたわけですが、無限枠であるインターネットの価値増大によって、新たな価値観が創造させるのでしょうね。
ただし、それが広告代理店・広告業界にとってハッピーなことかどうかは、微妙なところ。きっと、日本の大手広告代理店たちは、そのような流れに真っ向から対抗するんじゃないかな。
私がそのムーブメントに期待するのは、広告枠とメディアの分離が起こり、その結果メディアコンテンツが広告主の影響から逃れられる…。
それこそが私の望むところです。
投稿: スポンタ | 2007/08/03 13時36分
この関連で本書くんですか?めっちゃ面白そう。
投稿: タカヒロノリヒコ | 2007/08/03 12時07分