「バーチャル東京」-電通のセカンドライフ戦略
広告会社最大手の電通が、仮想空間セカンドライフに大々的に進出しようとしている。セカンドライフ内に大規模な土地を購入し、区画整理し、安心、安全、元気な「バーチャル東京」を開発しようというのだ。その中でクライアント企業のブランデッド・エンタテーメントを展開していくというのが電通の考え。担当者である電通のメディア・コンテンツ計画局企画調査部の粟飯原健氏にお話をうかがった。
元気X未来X東京
-電通のセカンドライフの取り組みの現状は?
今年2月にセカンドライフ研究会を立ち上げたと発表した。セカンドライフに企業が出展するにあたって必要な情報を提供したり、情報交換の場を作ろうというのが主旨。知見やノウハウを共有することによって3Dインターネットの発展に貢献できれば、と思う。
-デジタルハリウッドさんと共同で、ですよね。これはオフラインの研究会?
3月に日本語版のセカンドライフが立ち上がるという想定で研究会を立ち上げたが、日本語版のスタートが遅れている。すぐにでも(オフラインの)研究会を開催したかったのだが、情報が出揃ってからのほうがよかろうということで、加入企業さんには待ってもらっている状態。近く日本語版が立ち上がるということなんで、第1回の研究会を行いたいと思っている。
これは勉強会的な要素もあるし、カンファレンス的要素もある。将来的にはテーマに応じて分科会的なものができていくのでは。最初はリンデンラボのCEOに来日してもらい、日本でのサービスインを宣伝してもらい、参加企業で盛り上げているということの象徴的な会にしたかった。今でも来日を要請しているし、こうしたイベントが開かれればいいなと思っている。

-勉強会以外の電通の取り組みにはどんなものがあるか?
バーチャル東京の立ち上げの準備を進めている。単独で出て行くよりも企業の集積地を作り、そこで企業間のコラボレーションを促進したい。ある程度セキュアな環境や、企画を共同で運営していくような場を設定したほうがいいと思った。
セカンドライフは自由過ぎて、とまどう人が多い。ある程度の世界観を設定したほうが企業にとって進出しやすいのだと思う。
そういう考え方にのとって電通として「シム」を相当数購入していく。「島」を既に購入しており、ゾーニング(区画整理)して、エンタテーメント性の高い企画で企業に進出してもらえるよう準備を進めている。
-「相当数」とはどの程度の広さ?
最初からあまり広すぎても企業さんが埋もれてしまう。最初はある程度の数にしようと思う。ということで最初は25シムぐらい。順次拡張して、状況に応じては「バーチャル東京Ⅱ」ということも考えていきたい。
-統一した世界観を提供するというが、具体的にはどういうものになるのか?
社の上層部からは、反社会的な行動の温床にならないコミュニティーを作れ、と言われた。その考えにのっとった世界観。
個人的には、セカンドライフのアバターには、リアルの自分を認識できる鏡の効果のようなものがあると思う。忙しいビジネスマンがリゾート地へ行って英気を養うというオンとオフが生活には必要。セカンドライフも、このオンとオフの効果を使ってリアルな自分を発見できるような世界観がいいと考えている。
この考えの下、キューエンタテインメントの水口哲也さんと協業。「元気X未来X東京」というコンセプトができた。
ただ楽しくなくては、つまらない。企業色をエンタテーメントというオブラートに包み、上手なコミュニケーション、ブランディングを提案していく。3Dインターネットという表現の自由度の高さを利用して、ブランデッド・エンターテーメントの新たなトライアルをしてみたい。
-反社会的行為の温床にならないようにするにはどうするのか?
注意しなくてはならないのは、マネーロンダリングや、風俗系、出会い系などに、変に活用されてはならないということ。ただリアルの社会でも起こっていることと、セカンドライフ固有で起こってしまうこととは、区別して対処しなければならないと思っている。
ユーザーがどこかのカジノでリンデルドルを稼ぐであるとか、意図しない形で法律に違反するのを、どのように防げばいいか。当局と情報交換しながら、その辺りを慎重に進めていきたい。
バーチャル東京の中では、物販は当面しない。アイテムを無料で配ったり、(ウェブサイトに)リンクを張り、リンク先でEコマースを展開することはある。
現行の法体系や、システム上の要件だとかに注意しながら、きちっと対処していきたい。
-バーチャル東京に「警察」はできるのか?
明治以前は、自治、自警だった。警察がなくても、安全なコミュニティが形成できればいいと思う。
-条例は作っていくのか?
まさに今、禁止行為などを策定中。リンデンラボが定める禁止行為や、さらに法律違反、なども当然、禁止していく。違反者には、システム上で、有人で、対処することを検討中。
-最後に付け加えたいことは?
研究会には現在70社が参加してくれており、100社くらいまでの参加が見込めると思う。
-どういった業種の企業が多いのか?
金融が多い。金融がどこまで、どういう形で展開できるのかは、法律の関係もあるので、当局と相談して進めていかなければならない。基本は、通常のインターネットを活用するようなマーケティングツールになる。なにかそこで取り引きを発生させたり、金融商品を売ったりすることは、物販と同じなので(当面は控える)。セキュリティや法律の問題がはっきりするまで、慎重にやっていきたい。
参加企業は、ネットの黎明期と同じようなにおいを感じている。一度経験しているので、同じようことが起こるだろう、という期待感が高い。
-ビジネスモデルは今のところブランディング?
ネットの黎明期と同じなので、最初は情報発信。ブランディング、マーケティングが中心になる。ただ1社ではなく、複数社で、共同ブランディング、マーケティングができるという強みがある。
-おもしろい取り組みは?
エンタテーメント系の話が相当来ている。今は企画段階が多い。われわれは総合広告会社なんで、ネットだけではない世界、つまりテレビやほかのメディアとの連動できることが強み。セカンドライフ内だけでみると、費用対効果は少なくても、テレビなどと連動させることでパブリシティー効果を高めることが、われわれには可能だ。
セカンドライフがユーザーに問い掛けていること
-セカンドライフは今年ブレイクするのか?
何年かして「2007年って3Dインターネット元年だった」とみんなが思うような年になると思う。
(ブレイクする、しないの意見の違いは)それぞれの仕事の立ち位置の問題だと思う。われわれは評論家ではないので、実践者としてそういう世界を作っていくという気概を持ってやっている。
パソコンの性能などの要因があるので、どの段階で3Dネットがやってきたというのは難しい問題だが、明らかに傾向として3Dインターネットの試みが幾つか出てきている。また注目度も高まっている。
その中で先頭集団を走っていくのかどうか。われわれは、もし「いつかくる」のであれば先頭を走り、その中で学んでいくことのほうが重要だと考えている。
-異なる3次元のプラットホームが幾つかでているが、どこが勝つと思うか?
技術を抱え込まないで、ユーザーに自由度を与えるということや、ある程度コアな部分を押さえて、インフラの一部を開放していくというオープン性、中立性が現在のトレンド。 そういう意味でセカンドライフはよくできていると思う。
問題になるのは、どこまで企業が権利だとか管理を抱え込むべきかということ。開放することで一部レベニューを放棄、その分、その世界は発展する。一方で抱え込めば権益を確保できるが、一部の人が儲かる世界。最終的にはユーザーはどちらを支持するか、とことだろう。
-どちらを支持すると思うか?
日本では「ある程度の環境整備をし、あとは自由」としたほうが、コミュニティは発展すると思う。
個人的には、これからは自分で目的を持って何かをしていくという世の中になっていくと思うし、そうなってほしい。セカンドライフをやって一番思うのは、セカンドライフが問いかけていることがある、ということ。それはバーチャル、リアルにかかわらず、「君は何がやりたいのか」ということだ。流行っているから、得をするから、ということではなく、一個の個人、法人として、自分のアイデンディティは何で、自分は何をやっていきたいのか、という目的、目標がはっきりしないと、(セカンドライフの中では)途方にくれるだけ。それを自分で考え、見つけていかなければならない。これはリアルでもバーチャルでも大事なこと。(目的、目標は)人に与えてもらうものではない。
そういう意味でいうと、「シナリオやマニュアルがあって攻略していく」といった(ゲームのようなものは)面白いかもしれないが、そういう(シナリオやマニュアルがない)世界があってもいいかな、と思う。
個人のクリエイティビティ、パーソナリティを生かして、どう自分で生きていく、ということが問われていく世の中になっていく、と思う。
ただすべての人が急にそう変われるわけではないので、(それぞれに)心地よい環境を作る(というやり方はありだ)と思う。
-セカンドライフ内では、今のところブランデッド・エンタテーメントといったビジネスモデルが中心。その次にくるアクティビティはどのようなものになると思うか?
5年くらいのスパンで3Dインターネットが一般化すると思う。この変化は、みんな2次元ネットで経験済みなので次に何がくるのかは、みな想像がつく。そういう意味でいうと、模索するというより、どう実装していくか、ということになっていく。変化は早いと思う。
-3次元機能ならではの発展は?
セカンドライフの場合なら、ボイス機能が入ってくれば、テレビ会議が不要になる。
Eコマースは、中で完結するものと、ウェブと連携していくものと分かれると思う。リアルに物として届くものと、電子情報のやり取りで富の移転ができるものがあるというように、幾つかフェーズが分かれる。リアルな物の場合は、仮想空間の中でもアイテムが手に入れられ自分の家に置けたりする一方で、現実社会でもそれと同じ製品が送られてくるということがあるかもしれない。
一方で金融機関がこの分野に注目しているのは、金融情報はリアルな物のやり取りとは異なり、仮想世界との親和性が高いから。
-3次元ならではの金融情報のやりとりとは?
新しいプラットホームの中の経済システムに金融機能を取り込んでいこうということが方向性としてある。
-リンデンドルの銀行を作るとか?
(リンデンドルを)貨幣としてではなくポイントとして扱うと、(仮想銀行による)ポイント発行、交換業務などは成り立つ。
-セカンドライフ内でのクレジットカードなども出てくる?
そうですね。
-SNS的、コミュニティー的にはどうなるのか?
(セカンドライフは)場の設定がしやすい。集える場所がある。それは普通のSNSでもあるかもしれないけど、よりリアルに近い状況の中でそういう場所ができる。例えば高校の同窓会を(仮想空間の)学校の教室みたいなところ作って、年に1回そこに集うというようなことができる。
-20年先は?
パソコンというくくりもなくなる。マイノリティーレポートなんかのように、バーチャルの世界の中で遭う人が自分のおじいちゃんだったりするかもしれない。そういうこともあるかもしれない。
-スピリチャルの世界のような話ですね
そう。鏡の効果というものが、仮想空間はそういうものを問いかけてくる。仮想世界が問いかけていることの本質は、かなり深いと思う。
(取材・文:湯川鶴章)
注:電通は第3回時事通信テクノロジーセミナーのスポンサーです。
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