映像ジャーナリズムとしてのYouTube
とはいえ、「ユーザーが発信するオリジナルの情報」に実際、どれほどの価値があるものなのか?既存メディアの側に立つ人々は、私の言う個人のクリエイティビティの爆発に対しておおむね懐疑的な立場をとる。
しかし、ユーザーが発信する情報が時に大きな話題を呼び、既存メディアでも取り上げられるようなケースは着実に増えてきている。特に映像はインパクトが大きく、ジャーナリズムにおける成果は顕著である。米国の事例になるが、ユーチューブから生まれたスクープの数々を紹介しよう。
2006年8月
米重工大手ロッキード・マーチンに勤務していたマイケル・デコート氏が、沿岸警備隊の巡視艇におけるセキュリティ上の欠陥を指摘する告発映像をユーチューブに掲載した。指摘した内容はこれまで政府機関などにも再三訴えたが取り合ってもらえなかったためユーチューブでの告発に踏み切ったという。
同10月
ロサンゼルス市警の白人警官2人がヒスパニック系の男性容疑者を逮捕する際、暴行を加える様子が公開された。これは、現場付近の住民が携帯電話で撮影したもので、この告発をきっかけに、FBI(連邦捜査局)が捜査に乗り出した。同じ映像は9月に司法機関にも届けられていたが、問題なしとされていたという。
同11月
オンタリオ州ハミルトンで行われた人気ラップ歌手、ショーン・プライスのライブ後に殺人事件が発生。ハミルトン警察がユーチューブに投稿された1分12秒のライブ映像を検証した結果、映像に容疑者が映し出されていたことを確認し、犯人逮捕の一助となった。ちなみにショーン・プライスはユーチューブでアルバムを積極的にプロモーションしていた。
日本でも、一連の耐震強度偽装事件に関連して、イーホームズの藤田東吾社長が、マンション販売やホテル経営で知られるアパグループの物件にも偽装疑惑があると自らユーチューブ上で告発し続けてきた例がある。最初に記者会見を開いたがテレビや新聞はまったくこの話題を取り上げなかったため、藤田社長はユーチューブと人気ブログ「きっこの日記」を通じて自らの主張を訴えた。最初アパグループは一切の疑惑を否定していたが、2007年1月に、アパグループが経営する京都市内の2件のホテルで耐震強度偽装が発覚したのを皮切りに、ほかにも耐震偽装が露呈することになったことはご存じのとおりだ。
話が少し横道にそれるが、マスコミの人間として、なぜ最初の記者会見をマスコミが報道しなかったを説明しておきたい。マスコミはその影響力の大きさから、疑惑があるというだけでは報道できない。「これは単なる疑惑にしか過ぎません」とただし書き付きで報道しても、当事者に多大な社会的被害を与えることは避けられない。「倒産のうわさ」を報道にすれば、再生に向けて努力を続け十分に再生の可能性のある企業でも、報道をきっかけに倒産してしまうことだってある。ネット上で、アパグループが政界とのパイプを利用してマスコミに圧力をかけたとの憶測が流れたが、マスコミはどんな事件でも報道することによる影響を考えて慎重に動かなければならないものだということはご理解いただきたい。
さて前著『ブログがジャーナリズムを変える』の中でわたしは、ネット時代の新しいジャーナリズムの特徴を「参加型」「議論型」「分散型」ととらえ、とりわけ不特定多数の市民が情報を集めてくる分散型ジャーナリズムは期待できると書いた。テキストベースのブログに加え、動画共有サイトという重要なインフラが普通の人々のものになった今、その期待はますます大きくなっている。
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