経済リワイヤリング-ボツにした未完成原稿vol.0
結局ボツにした原稿。何かの役に立てばということでアップします。未完成原稿なので、未確認情報が含まれます。ご注意ください。
流す順番を間違えました。今回の原稿は、前回の原稿より前にくるものです。
◎序章 米IT大手が広告事業に参入
▼何が何でも広告大手目指すマイクロソフト
「必要な人、物、金、技術革新を投資し、どんなことがあっても広告業界のキープレーヤーになってみせる」ー。米パソコンソフト最大手マイクロソフトのス
ティーブ・バルマー
CEO(最高経営責任者)は2007年の でこう言ってのけた。広告のキープレーヤー?・・・。IT大手のマイクロソフトが、である。
2007年のマイクロソフトの企業買収の数々を見てもマイクロソフトが広告分野に本気で参入しようとしていることが分かる。夏には、広告マーケットプレースの有力ベンチャーであるadECN社を買収した。
広告マーケットプレースとは、ウェブサイトの広告枠の売買をネット上で行うサービスのこと。広告枠を売りたいサイト側と、広告を出講したい広告主とが、そ
れぞれ金額や期間などの条件を提示し合い、それを自動的にマッチングするサービスだ。電子証券取引所の広告版というようなものだ。
それにしてもなぜ広告なのか。
ゲイツ氏は言う。「われわれは、今後10年間で広告がどのように変わるのかに関して幾つものビジョンを持っている。少なくとも若者はデジタル双方向環境に入り、多くのお金がそこに流れ込む。その分野には非常に大きなチャンスが待ち受けているんだ」。
しかし、チャンスが待ち受けているのはオンライン広告市場だけじゃない、とゲイツ氏は言う。「オンライン広告市場は、広告市場全体から見ればまだまだ小さ
い。でもテレビ視聴はどんどんインターネットベースになりつつある。読書だってどんどんスクリーンベースになってきている。双方向のターゲット広告は今は
まだ(オンラインの)小さな領域にしか存在しないが、やがて完全に主流になるんだ」と主張している。
今ネット上の広告の現場に押し寄せている技術革新の波が、いずれテレビ、ラジオ、新聞といったあらゆる媒体にまで波及する。それはマイクロソフトにとっても非常に大きなビジネスの領域になる。だからこそ、そこに全力を傾けるというのだ。
マイクロソフトのCEO(最高経営責任者)であるスティーブ・バルマー氏は同じ金融アナリスト向けのイベントで、より熱い思いを込めて広告事業に向けた展望を語っている。
「広告業界ではまだわれわれは小さなプレーヤーに過ぎない」とバルマー氏は言う。「しかし小さなプレーヤーであるということはチャンスでもある。これまで
築き上げたものを失う心配がない分だけ、新しいことにチャレンジできるからだ」。「広告のあり方を変えるような、広告のあり方を再定義するような新しいこ
とを手がけてみたい」とバルマー氏の思いは熱い。
▼経済のリワイヤリング
オンライン広告市場から始まって、テレビ、新聞などのマス媒体の広告市場もデジタル化され、オンライン広告に連携され、つながっていく。そこには大きなビジネスチャンスが待ち受けている。しかしマイクロソフトが見ているのは、そうした広告の分野だけではない。
ゲイツ氏は、今後社会のありとあらゆる企業のシステム、経済のシステムが1つにつながっていく、と主張する。
例えばコンビニエンスストアの店頭POSシステム。POSを使えば、日本のどの地域でどの商品が売れているのかがリアルタイムで把握できる。そうしたリア
ルタイムデータに広告配信を連動させることも理論的には可能。東北地区での売れ行きが芳しくないのであれば、東北地区のユーザー向けに広告を配信する広告
枠に対する入札価格を吊り上げる、といった具合だ。顧客関係管理システムや、在庫管理システム、各種統計データなども同様に広告配信システムにつながって
くるだろう。
既存のシステムだけではない。これからは、ありとあらゆる情報がデジタル化され、集計可能になっていく。ユー
ザーがどこにいるのかとう位置情報はケータイのGPSやsuicaなどの公共交通機関の定期券を使って集めることができる。felicaなどの電子マネー
でどんな商品を買ったかという記録も集めようと思えば集めることができるだろう。冷蔵庫にもICチップが搭載され、買い足す必要のある食材を自動認識する
ようにもなるだろう。
こうしたありとあらゆるデータをコンピューターが自動的に分析し、消費者一人一人に合った広告や情報を配信していく時代になるのだ。
広告の配信先もパソコンやケータイだけではない。カーナビゲーションの画面や、エレベーターの電子ディスプレーなどにも、利用者の属性に狙いを定めた広告
が表示されるようになるだろう。電車内の吊り革広告や街頭のビルボード、看板なども、電子ディスプレー化が進んでいくことだろう。
広告という概念を超えたコミュニケーションがあらゆる電子機器を通じて、企業と消費者との間で始まろうとしているのだ。そうしたコミュニケーションを通じて消費者の信頼や愛着を勝ち取った企業が、21世紀の成長企業となるのであろう。
広告から販売まで1つの配線でつながっていた時代から、無数の機器が複雑につながる、時代へ―。ビル・ゲイツ氏は「今、経済のリワイヤリング(配線組み換え)が行われている」と表現している。
配線をつなぐ作業は、デジタル化され配線可能な領域から始まり、徐々に経済全体に広がっていくだろう。今すぐにでも配線が可能なのは、オンライン広告の領
域である。広告主、メディア、消費者を結ぶオンライン広告の新しい仕組みが、すべての経済活動をつなぐシステムの中核になる可能性があるわけである。
▼準備は万端。いざ始動
マイクロソフトはこうしたビジョンに向けて動き始めている。2007年中にも積極的に企業買収を行った。
最も話題となったのが、大手広告会社アクアンティブ社の買収である。
マイクロソフトによると、アクアンティブ買収でマイクロソフトは4つの武器を得たという。1つは、広告枠の売り買い機能を持つ広告ネットワーク「DRIVEpm」である。
2つ目は、「Atlas」と呼ばれる広告配信サーバーと、それが持つデータ、アルゴリズム(計算プログラム)、それに広告主である。
3つ目は、媒体社と広告主向け各種ツールである。このツールのおかげで、アクアンティブは、媒体社にも広告主にも幅広い影響力を持っている。
4つ目は、アクアンティブ傘下の広告代理店アベニューAレーザーフィッシュ社である。同社は、世界最大のデジタルメディア広告代理店。ちなみに日本では電通と合弁会社を設立している。
売り手と買い手を結びつける仕組み、広告配信の仕組み、媒体社・広告主向けツールなどを強化するための買収というわけだ。
マイクロソフトはこのほかにも、前出の通り広告マーケットプレースのアドECNを買収しているし、2007年5月には、フランスのモバイル広告技術を持つ
スクリーン・トニック社を買収したと発表している。スクリーン・トニック社は、モバイルの広告主200社の広告を配信している。モバイル広告は、急成長が
期待される市場である。スクリーン・トニック社は、現在広告主200社の広告を14億ページ分の広告枠に向けて配信している。
またゲーム内広告のマッシブ社も2006年5月に買収している。マッシブ社は、野球ゲーム内の野球場の広告枠や、ストリートファイトゲーム内のビルボード
の広告枠などを、実際に大手企業に広告枠として販売している会社だ。コカコーラの広告など本物の広告を3次元ゲーム内に表示することで、ゲームのリアル感
が増すと評判だ。
マイクロソフトが2007年3月に開催したウェブセミナーで同社は、マッシブ社がこれまでに100社以上
の大手企業の200件以上の広告キャンペーンをこれまでに展開したと発表している。また7月の金融アナリスト向け会合で、マッシブ社が広告を掲載している
ゲームは50本を超えており、年内にはゲーム会社40社以上の協力を受け、広告掲載ゲームの本数が100本以上になる見通しを明らかにしている。
ゲームを楽しむのは13歳から29歳までの若者層。テレビなどほかの媒体に触れることが少なく最もリーチしずらい消費者層の1つだ。日本ではまだまだこれからの感があるが、米国の広告主はゲーム内広告に熱い視線を送っているようだ。。
マイクロソフトはまた、インターネット回線技術を使ったテレビ(IPTV)の分野にも力を入れている。IPTVではマイクロソフトは、メディアルームという製品を発表しているが、この分野にもアクアンティブ社のオンデマンド動画広告技術などを取り入れていく考えだ。
アクアンティブ社、アドECN社、スクリーン・トニック社、マッシブ社・・・。マイクロソフトが構築を目指す広告事業の基本的な要素は手に入れた。同社の
広告を担当するプラットホームズ・アンド・サービシズ部門のプレジデント、ケブン・ジョンソン氏は「明確な戦略も持っている。基本的要素の組み立ては終え
た。今は統合を進めている」「これまでは基礎固めの時代。これからは実施モードに入る」と宣言している。マイクロソフトは、戦闘モードに入ったわけだ。
▼IT、広告、メディア企業が参戦
マイクロソフトほど雄弁に、究極の未来の姿を語るわけではないが、米IT大手はどこも同じように広告関連の企業買収を急いでいる。
グーグルは2007年2月に、ゲーム内広告のアドスケープ社を2300万ドルで買収、4月にはオンライン広告配信システム大手のダブルクリック社を31億
ドルで買収することで合意している。ダブルクリックは、広告マーケットプレース事業にも乗り出しており、マイクロソフトのadECNとは正面からぶつかり
合うことになる。
米ヤフーは2007年4月に、広告マーケットプレースで先行していたライトメディア社を完全子会社化した
ほか、行動ターゲティング技術を呼ばれる技術を持つブルーリチウム社を同年9月に3億ドルで買収している。行動ターゲティングは、ユーザーのネットサー
フィンの履歴から属性を判断する技術。例えば、自動車の新しいモデルに関する記事ばかりを読んでいるユーザーは自動車購入を検討している可能性があると、
属性を判断し、そのユーザーには自動車会社の広告を表示するという技術だ。
米アメリカ・オンライン(AOL)も、インター
ネット接続業者から広告事業に軸足を移そうと考えているようだ。2007年5月には、広告配信技術を持つアドテック社と、モバイル広告技術のサードスク
リーンメディア社を買収したのを手始めに、7月にはオンライン広告会社のタコダ社を2億7500万ドルで、11月には検索マーケティングのクイゴ社を3億
4000万ドルで買収している。
IT企業だけではない。広告大手も動き出した。
世界4大広
告会社グループの1つ、WWPグループは2007年5月に、オンライン広告技術の老舗24/7リアルメディア社を6億4900万ドルで買収したほか、9月
にはデジタル分野でのブランド構築が得意なスキマティック社を、10月にはコミュニティサイト内での広告が得意なブラスト・ラジウス社を買収している。
このほかにも広告関連の企業買収は多数報告されている。2007年は世界的には、広告ビジネスがらみの企業買収の年になった。
▼取材過程での不思議なできごと
こうした経済の配線組み換えは、日本では起こらないのだろうか。
広告マーケットプレースを手がけるベンチャー企業は幾つか出てきているし、わたしが接触した大手広告代理店幹部とのオフレコベースでの会話の中でも、広告マーケットプレースに対し彼らが興味を持っていることは十分にうかがえる。
とはいうものの米国のようにIT、広告、メディア企業が同じ領域に入り覇権争いを繰り広げるという事態が日本でも起こりうるのか。もしそうなれば、広告最
大手の電通はどう動くのだろう。ネットメディア最大手のヤフー・ジャパンはどう動くのだろうか。ヤフー・ジャパンを連結子会社として抱える孫正義率いるソ
フトバンクはどう動くのだろうか。電通とソフトバンクはスクラムを組むのか。それとも袂を分かつのか。メディア企業、広告会社の未来はどうなるのか。産業
構造はどう変化するのだろうか。
こうした疑問に対する答えを求めて、2007年夏ごろから本格的な取材を始めた。ところが秋口になり、奇妙なことが起こり始めた。
まずそれまでこちらからの取材申し込みに積極的に対応してくれていたヤフーの広報担当者からのメールが急によそよそしくなったのだ。それまではこの広報担
当者は「広告マーケットプレースに関しては湯川さんほど詳しく調べている記者さんはいないでしょうから、実際にサービスインする際にはぜひ湯川さんに取材
していただきたいです。動き始めたらトップとのインタビューをセットアップしますね」と言ってくれたものだった。まずヤフーの広告ビジネスについて調べて
おこうと思い、広告担当の中堅幹部への取材を広報担当者に申し込んだ。ところがメールの返事は「現在お話できるようなことはございません」という非常に
あっけない内容だった。
また某広告会社の幹部を取材したところ、広告マーケットプレースの話で盛り上がったのだが、翌日になって広告マーケットプレースに関する部分は原稿や音声ファイルから全部削除してほしいとの要請が来た。
大手広告会社の中堅幹部が、積極的に連絡を問ってくるようになったり、大手広告会社の上層部の人間から米国ヤフーの状況について詳しく質問されるようになった。
いったい何が起こっているのだろうか。
答えは簡単だ。情報を出さなくなった会社は、広告マーケットプレースの立ち上げ準備を実際に始めたのだろう。反対に積極的に近づいてくる会社は、買収、提携を検討するため情報収集を始めたのだろう。
水面化の動きが活発になり始めたわけである。
▼新聞に載らない産業変革の始まり
こうした日本の取材先に共通することは、あまり多くを語りたがらないということだ。事の重要性はだれもが認識している。ビル・ゲイツの言うように、経済の
リワイヤリングの可能性をだれもが認識しているようなのだ。しかし経済のリワイヤリングには、メリットを受ける者がいる半面で、デメリットを受ける者もい
る。大々的に発表すれば、いろいろな方面から反対され、計画がつぶされる可能性がある。
合理性の名の下に劇的な変化が許される米国のビジネス環境とは異なり、日本で合理性だけを追求すれば激しく糾弾されるだろう。
米国でも日本でも広告業界を核にした産業界の大変化は今後同様に進むだろう。しかし派手な買収などでマスコミを賑わすであろう米国とは異なり、日本では最
初はひっそりと始まるのだと思う。最初は新聞の片隅にしか載らないような小さな提携話が、気がつけば広告業界のインフラ的な役割をになうようになってい
く。日本での変革はそのように進む気がする。
大きく伸びる企業が生まれる一方で、凋落していく企業もあるだろう。「申し訳
ないけど、小さな広告会社は倒産していくかもしれないですね」・・・。取材の中で、複数の大手広告会社の人間の口から出た言葉だ。変革は新しい勝者を生む
一方で、時代の波に乗れない企業を必ず作り出す。
広告を核にした産業変革の第1章が今、静かに始まろうとしているのだ。
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