IBMが読む広告の未来-ボツにした未完成原稿からvol1
昨年秋ごろから次の本のための取材、執筆を始めた。8割ほど原稿ができた時点で米国取材を行ったのだが、米国取材の結果、本の内容を根本的に変更することに決めた。ということで200ページほどの原稿がすべて無駄になった。あまりにもったいないので、だれかの役に立てばということで、これから何回かに分けてここに公開します。未完成原稿なので、事実関係に誤りがあるかもしれませんので、引用などには十分気をつけてください。
◎第1部 過去50年を超える今後5年の変化
第1章 メディア消費の3層が共存する過渡期
▼「われわれの知っている広告の終焉」
米IBMが非常に興味深いレポートを出している。2007年秋に出たレポートだが、タイトルはずばり「The end of advertising
as we know
it(われわれの知っている形の広告の終焉)」。「今後の5年間は、広告業界にとって過去50年間以上に変化の多い期間になるだろう」という書き出しで、
広告業界をめぐる技術や環境の変化と、その結果として今後5年間で起こる近未来の可能性を4つ提示している。2つの不確定要素のお陰で、4つのうちどのシ
ナリオになるのかは分からない、というわけだ。
ただ5年以内に通る道筋はどうであれ、その先の究極の広告の形は、明確にイ
メージされている。それは、テレビ、ラジオ、新聞、インターネット、モバイル機器、ケータイ電話、店頭端末、デジタルビルボード、電車内スクリーンなど、
ありとあらゆる媒体を通じて、リーチしたい消費者に確実にリーチできる広告である。この究極の広告の形に向かって、広告と広告業界はどのような形で進化す
るのか。その進化過程としての予測シナリオを4つ提示しているわけだ。
▼IBMが読む広告、マーケティングの未来
この究極の広告が実現する未来に、広告、マーケティング担当者の仕事は最終的にどのようなものになっているのだろうか。
IBMは、未来の広告、マーケティング担当者の仕事ぶりを具体的に次のように予測している。
ジムは、ある消費財メーカーのマーケティング部門の責任者である。ジムは長年、マーケティング予算の60%をテレビコマーシャルに投入していた。もちろん CM枠は、実際の広告効果にかかわらず、決まった額を支払うことが最初に決まっていた。しかしコマーシャルがだれにリーチできているのか、どの程度効果が あるのか正確なところは、ジムには分からなかった。
今は、まったく違うアプローチを取っている。広告、マーケティングの効 果に対しても、自信を持てるようになった。テレビ、ラジオ、モバイル機器、出版物、店頭キオスクなどのすべてのメディアを客観的に分析し、どういう形で広 告、マーケティング予算を配分すべきかを決めている。消費者は自らの判断で、マーケティングメッセージに対してどのように接するか、どのメッセージに接す るか、どのメッセージをブロックするか、を決めることができるようになっている。そうした時代になったからこそ、郵便番号をベースにした消費者のひと固ま りにではなく、消費者一人一人にリーチすることが重要になっているのである。
CCO(Chief Consumer Officer=消費者担当責任者)であるキャシーのおかげで、ジムは社のターゲットである消費者層がどういう人たちであるのか、ターゲット層がどこに向 かっているのか、どうすればターゲット層が接する数多くのメディア機器を通じて彼らの好む方法でリーチすることができるのか、ということを熟知できるよう になっている。消費者の周り、360度すべての方向が、コンテンツや情報で埋め尽くされた環境になっていく中で、消費者のライフスタイルや消費者のおかれ た状況や状況や、場所などに合わせて、マーケティングメッセージもパーソナライズされてきているのだ。
過去には、マスに リーチできる広告枠を買うことがあった。マスにリーチすれば、その中に存在するであろうターゲット層にもリーチできるだろうと考えたからだ。今は、イン ターネット広告でしか使えなかったターゲティング、効果測定、解析のツールが、あらゆる広告媒体に対しても使えるようになっている。ジムは、ターゲット層 の消費者一人一人に向けた、あらゆるメディアを使った統合的で双方向的なマーケティングプランを作ることができ、広告の表示件数ではなく、消費者に実際に インパクトを与えた広告に対してだけ広告料金を支払えばいいようになっている。ターゲット層の消費者がどのメディアに接触していようと、個人に向けた一貫 したメッセージ、経験を提供できるようになっているのである。
ジムが発信する広告は、いろいろな形のメッセージの組み合わ せである。特定の層にしか影響のないニッチなコンテンツであったり、番組内でさりげなく商品を見せるプロダクトプレースメントだったり、消費者発信型の広 告だったりする。消費者は、ブログなどの個人メディア上などに、自分のお気に入りの商品や企業の広告や、ブログの読者に合った広告などを掲載するようにな る。消費者自らがどの広告を表示するのかを決めるようになるのである。
こうした広告の形を組み合わせることで、商品の価値 をよりよく理解してもらえるようになるのだ。こうした広告は、メディア企業や、セミプロ、インフルエンサーなどの個人と一緒になって製作する。広告代理店 を通じたコマーシャル製作よりも、非常に低コストで広告が製作できるからだ。細分化されたターゲット層向けに数多くのバージョンのコマーシャルを製作して も、1つ当たりの制作費が劇的に低化するので、全体の広告予算は以前とそう変わらない。いや、広告効果が高上するので、広告の費用対効果はかえって高上し ているということができる。
広告効果の測定は、広告をどれだけ多くの人に見てもらえたかではなく、実際に消費者にどれくら いのインパクトを与えたかが基準になるので、広告部門は営業部門と密接な関係を結ぶようになった。販売促進費や、ダイレクトマーケティング費の一部は、広 告部門に移管された。広告効果の測定は、営業部門など、あらゆる部門からのデータを統合し、1ヵ所に集めて分析することのできるマーケティングソフトを 使って行うようになっている。
またあらゆるメディアや機器の広告枠の売買は、オンラインの広告マーケットプレース上で、 「ダッシュボード」と呼ばれるソフトを使ってリアルタイムに効果測定しながら瞬時に行えるようになっている。「広告の効果があればいいな」と希望する時代 は終わった。マーケティング予算とその効果を完璧にコントロールできる時代になったのだ。
このIBMの予測には、幾つか興味深いポイントがある。1つは、CCO(消費者担当最高責任者)という役職である。CEO(最高経営責任者)、CTO(最
高技術責任者)、CFO(最高財務責任者)などという役職は、米国企業では一般的だし、日本企業の中にも、こうした肩書きの役職を採用する企業が国際企業
を中心に一部で見られるようになってきた。最近では米国で、CMO(最高マーケティング責任者)という役職を設けるべきだ、という主張を耳にする機会が増
えた。しかし、COOという言葉は、わたしにとって初耳である。
このレポートの中ではCOOの具体的な役割に対する言及は
ないが、恐らく消費者に関するデータを収集、管理することを専門にする役職なのだろう。消費者データを核にしたターゲット広告に期待が高まる中で、経営陣
の中に専門職を設けなければならないほど消費者データの重要性に対する認識が今後ますます高まるであろうというIBMの読みなのだろう。
実際に消費者のデータ収集、管理、活用が、これからのビジネスの世界での再重要課題になることは間違いない。時代の覇権争いも、この辺りを主戦場に繰り広げられることになるだろう。消費者データの収集、管理、活用に関しては、あとでさらに詳しく議論してみたい。
このほかにも広告会社の中抜きや、広告マーケットプレース、「ダッシュボード」など、この究極の未来像の中の興味深いポイントについては、あとで詳しく考察してみよう。
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